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俺の虚しい想像が報われたのは、卒業式の日だ。
答辞を終えた茜が壇上でふらつき、突然倒れた。俺は咄嗟に茜へ向かって走り出す。
すぐに駆け寄った教師達が茜に触れ、体温の高さに体調が悪かったのだと言った。
茜からする噎せ返るほどの甘い匂い。それに誰も気付いていない。
俺はすぐに気付いた。
これは、Ωの発情。
俺の母親はΩ、男だ。幼い頃から耳にタコができるほど教えられて来たこと。
「Ωに出会ったら、発情の甘い匂いに惑わされてはいけない」
Ωの匂いには、αの性欲や支配欲を掻き立てる成分が含まれている。それに当てられてしまったαはラット化し、本能のままにΩの体を貪ってしまう。自分が望んでいなくても。
発情抑制剤や特効薬で自衛できるのは、現状ではΩだけ。ヒートを起こしたΩを前にした時、α側としては対処のしようがない。
つまりは、Ωの誘惑に逆らえるαなどいない、という事。
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