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仕事としてじゃなく、茜に何かしてやりたい。
俺はエプロンを外して、玄関に置いた自分のカバンを漁る。
あれ、無い。財布、忘れたのか・・・
「茜。俺買い物行ってくるけど、財布忘れたみたいでさ。先にホテルまで取りに行ってくるし、戻るの少し遅くなる。お前また出先で発情したら困るだろーし、今日は俺一人で行ってくるから」
リビングにいる茜に声をかけると
「材料費なら俺が出すのに。・・・それよりホテルって?」
不思議そうに聞き返してくる。
「人の金預かんのやだし俺。・・・そーそー、住所は実家のままだけど、家出てからはずっとホテル暮しなんだよ。依頼主んとこで住み込みで働くこともあるし。今はそこの駅前のカプセルホテル」
「は・・・!? カプセルホテルだと!? αのお前が!?」
「αだってカプホくらい泊まるっての。シャワー室もあるしドリンクバーもあるし、快適だぞ」
「ちょ、ちょちょっ、ちょっと待て綾木!」
部屋を出ようとする俺を茜が引き留める。
「なに」
「なに、って。お前は、それでいいのか?」
「別に、不自由はしてないけど?」
「そうじゃなくて!・・・綾木の御家族は皆、警察のエリートだろう?」
確かに父は警察官僚だし母は元刑事で、兄も警視庁勤め。祖父も官僚だったっけ。
当然のように俺もそうなると思ってた。でも結局なれなかった。ならなかった。
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