其の覚悟。

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 次の日。西の大学寮へと戻った神楽。其れは休日であったが、辿り着いたのは日も落ちた頃に。なるべく目立たぬ様、東西の国境を越えて直ぐに手頃な馬車へと乗り換えたもので、乗り心地良しとも言えず疲労感を抱え門を潜る事になった。  雪は降っていないが、肌に当たる冬の夜風は冷たい。ふと、冬の寒さを感じたのは今が初めてだと。軍にいると、季節を感じる余裕も無い様だと自嘲する神楽。足を進め、程無く見えた寮の灯り。と、其方より人影が駆けて来る気配に気が付く。其れは。 「おかえり、神楽……!」  笑顔の千歳が、神楽の胸へ飛び込んで来た。しかし、喜びより先ず、心配そうに千歳の手を握る神楽。明らかに冷たくなっていると。 「千歳、此の寒い中外に居たのか?何時からだ?ならぬだろう、熱病にでもかかったら何とするのだ」  期待した反応では無かった上、過保護な説教が来た。なもので、千歳は少し拗ねた様な表情になる。 「たまに中へ入ったりしてたから大丈夫だぞ……何だ、本日の夜には戻ると言うから出迎えたのに……」  てっきり、笑うてくれると思うたものでと。不満げな千歳だが、神楽にはやはり望ましいものでは無い。此の寒空、千歳の身に何かあればどうするのだと。機嫌を損ね、少し膨らんだ様にも見える千歳の頬へ触れた神楽。其の頬も、やはり冷たい。 「冬や雨の日はならぬ。ほら、顔も冷たい……とにかく、早く中へ入るぞ」 「私は其れ程やわではないぞっ」  手を引き、寮内へと促す神楽へ付いて行きながらも、千歳はまだ不満の様であったが。
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