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一学期の通知表を受け取った。
たった今から夏休みだ。
肌を照りつけるまぶしい太陽。梅雨が終わり、湿気ていない爽やかな心地よい風が、初夏の香りを運んできた。
高校生になって初めて迎える夏休み。
ぼくは、気分も心も、すでに大型連休に向けて浮かれていた。
高校に入学してから同じクラスになり、ぼくと出席番号が近くて、すぐに言葉を交わすようになったハナは、とても可愛い女の子だった。
目が合った瞬間、ぼくはたちまち彼女に一目ぼれをした。
小顔で白い頬。
漆黒の瞳がきらきらと輝いていた。
学校では禁止だったため、なにも塗っていない唇は、みずから桜貝のようにピンク色で艶があり、いつも楽しそうに笑みが浮かんでいた。
ぼくより少し身長は低く細身で、女子が全員同じものを着ているにも関わらず、紺色に白のラインのセーラー服でさえ、彼女の清純さを、さらに際立たせるようだった。
そんなハナは内気なためか、今まで彼氏がいなかった。
ぼくにとって、これほど幸運なことはなかった。
積極的に、でも強引にならないように話しかけ、平凡で取り立てて目立つところがないぼくが、短期間でクラスの中の誰よりも親しくなることに成功した。
ぼくとハナは、夏休みに入る前から、いろいろな計画を立てた。
一学期の期末考査も、夏休みを楽しく過ごすために頑張った。
ぼくも彼女も、赤点なんてものをとって、夏休みの貴重な日に補習なんか受けている暇はなかったから。
友だちを誘い合わせてのグループでもかまわない。
ハナと行く海水浴。
砂浜に白いパラソルを立てる。
潮の香りと友人たちの楽しい声。
プールもいいよね。
流れるプールや滑り台。
海へ行けば、山にも行きたくなるはずだ。
近場の清流川でキャンプも楽しいだろう。
お約束のカレーやキャンプファイヤー。
釣れるかどうかわからないけれど、ぼくの得意な川釣りを教えてあげたい。
街へでて、夏休み公開の映画も観よう。
お互いの好みがわかる、ウインドウショッピングも楽しいだろうな。
近所の夏祭りにも行って、花火大会にも行って。
一緒に夏休みの宿題を、どちらかの家へ行ってすることさえも、楽しい計画のひとつだ。
そして、ぼくとハナは、まだ皆には内緒の生まれたての恋を、大切にゆっくりと育むんだ。
ぼくの、この想いと計画が夢ではないことを裏づけるように、教室で目が合うたび、ハナは、ぼくに笑いかけてくれた。
そして。
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