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こんな最果ての地までやって来たのも、総てはあの人のことがあるからだ。
「寒いな。もう五月だってのに、ここはまだまだ寒い」
一人、堤防に佇んで呟く。その声に答える者はない。
「近藤さん。あんたは、こんなところまでやって来た俺を笑うか?」
しかし、土方歳三は問い続けるしかなかった。ここまでやって来たのは、散り散りになっていく新選組を、幕府軍を引き連れてここまで来たことに意味はあるのか。ずっと疑問だ。
「おかしいな。昔はそんなこと、ちっとも考えなかったのに」
ただ真っ直ぐ、信じる道を突き進んでいればよかった。ただひたすら、近藤勇を上に押し上げる。そのためだけに頑張っていた。総ての指針。新選組にとっての、土方歳三にとっての光だった。それなのに――
「俺が囮になる。その隙にお前たちは逃げろ」
「なっ」
あの日。新政府軍の連中が身を潜めていた流山の屋敷を包囲した時、自分たちを逃がすために行ってしまった。止める自分を押しとどめ、大丈夫だと、大丈夫じゃないことなんて解り切っていったのに、行ってしまった。
そして――
「なんで、死んじまったんだ」
あっさりと逆賊として殺されてしまった。武士として切腹することさえ許されず、斬首されてしまった。その時、光が消えてしまった。何を目標にすればいいのか。完全に解らなくなってしまった。
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