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その3
そうしたひとりの若く健康な青年の暮らしをしていくなかで、いよいよ王子の衣装は繕いようがないほどボロボロになったので、ヴォロンテーヌは亜麻で織られた布で、動きやすくて丈夫な服を仕立ててくれました。その服を着たミシオン王子は、もう一国の王子というよりは、立派な羊飼いの青年か何かのように見えました。ミシオン王子はこの服がとても気に入って、一生でも着ていたいと思うくらいでした。
ミシオン王子は自分が着ていた王子の服を捨ててしまおうとしましたが、ヴォロンテーヌはそれを止めて言いました。
「王子さま、もしよろしければわたくしに頂けないでしょうか?」
王子は驚いてヴォロンテーヌを見ました。
「それは構わないが、こんなぼろ切れをどうするのです?」
「王子さまがお召しになっていたものはとても高価な布で仕立てられています。捨ててしまうのはもったいないので……」
ヴォロンテーヌは恥ずかしそうにうつむきながら言いました。ミシオン王子はヴォロンテーヌの愛らしくうつむいた仕草と、健気な物言いに胸を打たれながら、
「こんなすり切れたもので良ければ喜んで差し上げましょう」
と言って、ヴォロンテーヌに服を手渡しました。
ヴォロンテーヌは王子の衣服を嬉しそうに胸に抱えました。その可愛らしい様子にミシオン王子は胸を熱くしました。
しかしミシオン王子は、これほどに駄目になった衣服で何ができるのだろうと思ってヴォロンテーヌに尋ねました。
「これで何かできるのですか?」
「はい、実は父が近頃腰の痛みを訴えることが多くなったので、父のために綿を入れた腰当てを仕立てたいと思っております」
ミシオン王子はヴォロンテーヌの答えを聞いて、その深い思いやりの心に感動し、改めてヴォロンテーヌを尊敬しました。
こんな風にヴォロンテーヌとの会話も増えてはいましたが、ヴォロンテーヌはいつも控えめな態度で目を伏せていることが多く、王子をまっすぐに見るということはあまりなく、ミシオン王子を王子として扱うことをやめませんでした。王子は世間の人々のように、すぐに馴れ馴れしく愛嬌をふりまくようなことをしないヴォロンテーヌに、深い好意と称賛を感じる一方、いつまでも打ち解けてくれない寂しさを募らせもしました。ミシオン王子はヴォロンテーヌの美点に気がつくたびに、いっそうヴォロンテーヌを愛するようになっていたのです。
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