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その6
王子はそれからヴォロンテーヌに言われたことをよく意識しながら、態度を改めてヤギたちに向き合いました。するとあれほど勝手気ままに振る舞っていたヤギたちは、従順な子羊のようにミシオン王子に従ったので、王子はますますヴォロンテーヌを敬愛しました。
ふたりはヤギたちがおとなしく草を食む間に、ヴォロンテーヌが焼いて持ってきたパンを食べ、ヤギの乳をしぼって飲みました。王子にとってこれほどの幸福を味わう瞬間は、生まれて来てからはじめてのことでした。
昼を食べ終えると、ヴォロンテーヌは王子にあいさつをして、一足先に小屋に帰っていきました。ミシオン王子は感動と歓喜の興奮に身を委ねながら、夕暮れまでヤギたちと草原で過ごしました。沈みかけた太陽が草原を燃え上がるような黄金色に染め上げているのを目にして、ミシオン王子はこの世界の美しく荘厳な様に、全身が感動のために打ち震えるのを感じました。その途端、ミシオン王子は体が強い力で引き上げられるような感覚を覚えました。そして頭の中には強烈なイメージが浮かぶのでした。それはこの世のものとも思えないほど壮麗な宮殿の中に、白い翼をつけたたくさんの天使たちと共にいる自分の姿でした。
そのイメージはミシオン王子の胸を切なく締め付けました。それは先ほど不意に湧き上がってきた郷愁にも似た気持ちを遥かに大きく強く上回る感覚で、ミシオン王子は自分が何かとても大切なことを忘れているような気持ちに駆られました。
そのとき、ヤギの大きく鳴く声が王子を現実に引き戻しました。ハッとしてみると、一頭のヤギが王子のそばに来て、つぶらな瞳でじっと見上げていました。それは先ほど王子の手を噛んだヤギでした。ミシオン王子はそっと手を伸ばし、ヤギの頭を撫でました。ヤギは目を細めて王子の手を受け入れました。
「妙なものを見た。しかしなんだろうか、このはやる気持ちは……」
呟く王子に答えるように、またヤギが鳴きました。王子は笑って頷くと、
「よしよし、もう帰るとしよう」
と言って、ヤギたちを集めました。ヤギたちはおとなしく王子に従い、家路を歩きました。
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