第三章 その1

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第三章 その1

 王宮に着くと、すっかり面やつれしたパラン国王とジェニトリーチェ王妃が待っていて、王子を見るなり人目も憚らずに泣いて喜びました。これにはさすがの王子も、両親に対してすまぬことをした気持ちでいっぱいになると同時に、懐かしい父と母を前にした喜びもあふれ、固い抱擁を交わしあいました。 「なんとひどい格好をして……。よほどの苦労をしたのだね」  パラン国王はそう言うと、すぐに王子にふさわしい衣装に着替えさせるよう、家臣たちに命令しました。 「待ってください。まずはわたしの話を……」 「話は後でたっぷりしましょう。何はともあれ、まずは清潔にして身なりを整えるのが先よ」  ジェニトリーチェ王妃はそう言い終わらないうちにも手を叩き、家臣たちを急かしました。  王子は家臣たちに強引に連れて行かれ、お風呂に入れられました。ヴォロンテーヌが作ってくれた服は無理やり剥ぎ取られてしまい、王子が止めるのも聞かず、どこかへ持って行かれてしまいました。そして入浴が済むと、あっという間に王子の衣装に着替えさせられてしまいました。  王宮では王子が帰ってきたことを祝し、大々的なパーティーが催されることになりました。広間にはすでにたくさんのご馳走が並べられ、早速集まってきた貴族たちに囲まれた王子は、彼らが興奮した口ぶりで挨拶を述べるのにいちいち礼を返しながら、どこか居心地の悪い思いを感じて身をよじっていました。  心ではヴォロンテーヌやルーメン、リーデルのことを思い、すぐにも王子の衣を脱ぎ捨てて、村に駆け戻りたい気持ちでいっぱいでした。  そのときひときわ大きな祝砲が上がり、隣の国のヒュブリス国王からの使者として、アビティオ大臣の一行が広間に姿を現しました。隣の国は大きな国で、王子の国は経済の面でも武力の面でも何かにつけて援助を受けていたので、パラン国王とジェニトリーチェ王妃は玉座から立ち上がって下に降り、アビティオ大臣の一行を厚く歓迎しました。  王子も両親に倣って立ち上がろうとしましたが、アビティオ大臣が恭しく頭を下げながら、一瞬素早く王子に向けた一瞥に気がついて、ふと動くのをやめ、大臣の一行を見つめました。一行は丁寧でにこやかに振る舞ってはいますが、ミシオン王子は心に何かちぐはぐな違和感が生じるのを感じていました。  アビティオ大臣は、ミシオン王子よりいくらか年上の、まだ若い男でしたが、早くから頭角を現してヒュブリス国王が直々に大臣に任命した男でした。 e29a72ca-54fd-48b7-9b08-b1b85910513c  思い返せばこれまでにも何度かアビティオやその一行とは、会食をしたりして顔を合わせていましたが、いつも何か妙な気持になったものでした。けれど、これまでの王子はその奇妙な感覚について、深く考えてみるということをしていませんでした。とにもかくにも、アビティオ大臣たちはいつも非の打ちどころのない慇懃な調子でしたし、ミシオン王子に対しても最高の礼を以て接していたので、王子の自尊心は常に満足させられていたからです。
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