その2

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その2

 アビティオ大臣たちを見ているうちに、ミシオン王子はまだ幼い頃に一度だけ会ったことのあるヒュブリス国王のことをも思い出しました。ミシオン王子はそのときのヒュブリス国王の大きな体に威圧されると同時に、その冷たい目と態度に恐ろしいものを感じて苦手に思ったので、その後何度かヒュブリス国王と会う機会を与えられたときにも、両親にわがままを言って逃げていたのでした。両親はそうした王子の振る舞いを、ヒュブリス国王が寛大に許してくれていると言って喜んでいましたが、ミシオン王子はどうしてもヒュブリス国王への恐れが拭えずにいたのでした。  アビティオ大臣たちはミシオン王子のそばにも寄って来て、丁寧な態度と口ぶりで王子の無事の帰還への喜びとこれからの健康を祈って祝辞を述べました。以前ならそうした言葉を喜んで受け取っていたでしょうが、今のミシオン王子には、彼らのちょっとした目の動きや体の動きから、それが決して本心からの言葉ではないということが容易に見て取れました。  目の前のアビティオ大臣たちの振る舞いを見たり、ヒュブリス国王の記憶を思い返したりするにつけ、彼らが心の内では自分や自分の両親、ひいてはミシオン王子の国のことを軽んじているのだということがわかりました。  広間に集まったすべての人々が食事のテーブルに着くと、主だった貴族たちが順番にミシオン王子へ祝福の言葉を述べていきました。そしてアビティオ大臣の番が来ると、大臣は大仰な様子で立ち上がり、ヒュブリス国王から託された親書を恭しい調子で読み上げました。それによると、ヒュブリス国王のひとり娘であるマリス王女がミシオン王子との結婚を望んでいるということでした。  それを聞いてパラン国王とジェニトリーチェ王妃は大喜びし、早速明日中にも正式に婚約の発表をと意気込み、王子の賛成を得ようとしましたが、ミシオン王子はヴォロンテーヌを深く愛し、他の女性との結婚など考えられませんでした。しかし、大勢の面々の前でアビティオ大臣の、ひいてはヒュブリス国王の顔を潰すようなことは避けようと、今はとにかく帰ったばかりで非常に疲れているため、そう言ったことを考える余裕がないと言って、その場をごまかすに留めました。  パーティーが終わりに差しかかると、アビティオ大臣の一行は、宿泊を勧めるパラン国王に謝意を表しながらも丁重に断って、もてなしへの感謝とミシオン王子への祝福を再度口にしながら国へ帰っていきました。
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