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その15
ふたりと一羽は大急ぎで城を抜け出すと、森の中に駆けこんで、待たせておいた馬に飛び乗りました。ミシオン王子はヴォロンテーヌを再び自分の懐に入れると馬の腹を蹴り、リーデルを従える格好で国に向かって勢いよく走り出しました。
ミシオン王子がいなくなって騒ぎになっていた王宮に戻ると、王子はリーデルと共にパラン国王とジェニトリーチェ王妃に会い、すべてを話しました。
「にわかには信じられない話だ。娘がハトになっただとか、隣国が我々の国を狙っているだとか……」
パラン国王は困惑した表情でジェニトリーチェ王妃と顔を見交わしていました。
するとリーデルが二人の前に進み出て膝をつき、
「陛下と王妃様に拝謁します。恐れながら陛下、ミシオン王子のおっしゃることは真であると思います。王子は確かに冷たい石牢に捕らえられておいででしたし、王子の元に案内してくれたのは、世にも美しき純白のハトでした。それに、王子のお話を聞くにつれて、わたしが兵士として従軍しておりました頃の隣国との合同の軍事訓練のことなどが思い出されて来たのですが、確かに何か不穏なものを感じるところはございました」
「しかし……」
「父上、どうかもうお目をお覚ましください。我々は侮られ、軽んじられるばかりか、ついには滅ぼされようとしているのですよ!」
ミシオン王子は大声で叫びました。パラン国王はハッとしたように王子の顔を見つめていましたが、やはり呆然とした顔をしているジェニトリーチェ王妃の方を向くと、
「どうやら、我々はずっと現実から目を背けて、何も見ないふりをしてきたようだな」
「そうですわね……」
「愚かなのは王子ではなく、我々の方であるか……。あの農夫も、ほんとうのことを言っていたのだな」
「農夫ですって?」
ミシオン王子が尋ね返すと、パラン国王はため息をつき、
「今朝早く、ミシオン王子が危機に陥っていると知らせに農夫がやって来たのだ。だがわたし達は頭から信じようとはせずに追い払ってしまったのだ。なにせ、その農夫がおまえの言っていたヴォロンテーヌという娘の父親だとわかったものだから、てっきり金銭を要求しにでも来たに違いないと思い込んで……」
「なんですって? それではルーメンが来たのですね。それで、ルーメンはどうしたのですか?」
「衛兵に王宮の外に放り出すよう言った」
その途端、王子の懐からヴォロンテーヌが飛び出してきました。
「あっ、ヴォロンテーヌ!」
ミシオン王子は慌てて腕を伸ばしましたが、ヴォロンテーヌは王子の手をすり抜けて、悲痛そうに羽を羽ばたかせながら広間の天井を飛びまわっていました。
「ヴォロンテーヌだと? ではあれがそのハトになってしまったという娘なのか」
パラン国王とジェニトリーチェ王妃が驚いて見上げていると、ヴォロンテーヌは開いていた天窓から王宮の外に出て行ってしまいました。
「ヴォロンテーヌ……!」
またしても飛び去ってしまった悲しみで王子が叫ぶと、リーデルは素早く王子のそばに立ち上がって、
「ミシオン王子、ヴォロンテーヌはきっと村に帰ってルーメンの様子を見に行ったのでしょう。今は一刻も早く、隣国に対抗すべく準備をせねばなりません」
「あぁ、きみの言う通りだ。父上、この一件、どうかわたしに任せてはいただけませんか」
パラン国王は頷くと、ミシオン王子に全軍の指揮を委ねると宣言しました。
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