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その6
「さて、殿下とこうしてお話をさせていただくことは楽しゅうございますが、わしは残りの仕事を片づけてしまわねばなりません。またヤギの乳とパンで申し訳ないことじゃが、昼時にはそれを差し上げますから、それまでゆっくり休んでいてくだされ」
王子は農夫の仕事の手を止めさせたことを詫び、それから乳とパンの味を思い出して、思わずうっとりと言いました。
「あの乳とパンはほんとうに美味しかった。まるで魔法にでもかけられているようだった。何か特別なことでもあるのですか?」
「それはそれは、お気に召していただけたのならよかった。じゃが、特別なことなんぞは何にもありませぬ。しかし思うに、殿下は前の日、ほとんど何も召し上がらず、大変な目にお遭いになり、今朝もまた馬が見当たらなかったために、歩いてここへおいでなさったのじゃから、きっとひどく疲れておいでだったのでしょう。それであのような慎ましい食事が、魔法のように美味しく感じられたのでしょうな。しかし確かに、わしは労働の合間に食べる乳とパンで、直接的に命を養われておりますから、殿下のおっしゃる通り、魔法が効いておるのかもしれまんなぁ」
「あなたも、いつもヤギの乳とパンを食べるたびに、あの甘露のような味わいを、舌と言わず体と言わず感じているのですか?」
「さぁて、殿下がどれくらいに感じなさったかはわかりませぬが、確かに心を込めて労働した後では、しみじみと美味しく、どんなご馳走よりも良いものに感じますのぅ」
農夫の言葉を聞き、ミシオン王子は、それならば自分も農夫と一緒に働けば、昼に出されたときにはもっと美味しく感じるのかもしれないと思いました。そこで、農夫に自分も一緒に働きたいと言いました。
王子の申し出に農夫は大変驚きましたが、ミシオン王子が熱心に頼んだので、一緒に働くことにしました。
ミシオン王子は農夫に教えてもらいながら働きましたが、鶏を追って小屋に入れたりすることはもちろん、井戸から水を汲むこともはじめての体験でした。
それで王子はすぐに大汗をかき、へとへとに疲れてしまいましたが、はじめての労働にもかかわらず、どういうわけか心には喜びの気持ちが沸いて体中をひたひたと満たすのを、はっきりと感じていました。
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