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その9
その頃、全速力で飛んだヴォロンテーヌは、ルーメンの元に帰って来ていました。ルーメンは窓から勢いよく飛び込んで来たヴォロンテーヌを見ると、
「おぉ、ヴォロンテーヌ、戻って来てくれたのじゃな」
と、涙を流して喜びましたが、ヴォロンテーヌはただならぬ様子で小屋の中を飛び狂うばかりでした。
「ヴォロンテーヌや、どうしたのじゃ? さては何かを伝えたいのじゃな」
ヴォロンテーヌは、大切に取ってあったミシオン王子からもらったぼろぼろの服の切れ端をくちばしにくわえると、必死の想いを込めて、訴えるようにルーメンのまわりを飛び回りました。するとヴォロンテーヌの想いが伝わったのか、ルーメンは血相を変えると、
「そうか、ミシオン殿下のことじゃな? おまえの後を追って出て行かれたが、何か大変なことが起こったのじゃな? よし、それではすぐに助けを求めねば……!」
ルーメンはヴォロンテーヌと共に小屋を出ると、痛む足腰を引きずりながらも、大急ぎでリーデルの元に向かいました。
リーデルはちょうど仮眠から目を覚まして、再びミシオン王子を捜すために森に入ろうと準備をしているところでした。
「リーデル、リーデルや」
「ルーメンじゃないですか。どうしたんです、そんなに慌てて」
「大変なんじゃよ。どうやらミシオン殿下の危機らしい。詳しいことは後でみんな話すから、今はとにかくこのハトの後について行って、王子を助け出してくれんか」
「ミシオン王子の危機って……。それに、このハトについて行けですって?」
「そうじゃ、そうじゃ。早く行っておくれ。このハトはヴォロンテーヌなんじゃ」
「なんですって? ヴォロンテーヌだって?」
リーデルは驚いて目を丸くすると、呆然として、そこら中を慌てたように飛び回っているハトを見つめました。しかしそのハトの可愛らしく、どこか気品のにじむような佇まいを見ているうちに、ルーメンの言ったことがどうもほんとうであるように思い、
「わかりました。とにかくわたしはこのハトについて行きます」
と言って、村に数頭しかいない早馬を借りてくると、ヴォロンテーヌの後について走り出しました。
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