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「そういうの狡いから」
「やめて下さい」
「可愛い。抱っこしたい」
「ですから――」
くだらないやり取りを続けていると入口から声がした。入局一年目の時、指導医を担当してくれた先輩医の次屋だ。
「あー、いた」
次屋がちょんちょんと手を振っている。
「玉川先生、主任教授が呼んでますけど。何、二人でいちゃいちゃしてるんですか? 一応、ここ消化器外科の医局ですよ」
「俺は行かない。行きたくない」
「ちょっと、行きたくないって……子どもですか」
「あー、もう。いつも次屋が邪魔する。目障りなお邪魔虫ドクターだ。そのままいなくなってくれ。消えろ」
「なんの話ですか。とにかく教授が呼んでるんで、七階に行って下さいよ。俺、ちゃんと伝えましたからね」
「面倒だな。行きたくない」
「だから、そう言わずに」
部屋に入って来た次屋が自分の椅子を引いて玉川を立たせた。その勢いで空いた椅子に座る。
「春馬と並ぶな」
「わー、春馬とか名前呼んでるし」
「うるさい」
「だからもう行って下さいよ」
次屋が駄目押しすると玉川は名残惜しそうな顔のまま医局を出た。急に部屋が静かになる。
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