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白衣についたコーヒーを拭きながら廊下を歩く。
――全く。ここには変な医者しかいない。
フランクに人のプライベートを暴かないでほしい。本当は玉川より自分の方がずっと好きなのがバレた気がしていたたまれなくなる。
――好きなのは事実だけど。
――行為が上手いとか……そんなんじゃない。俺はただ人として尊敬しているだけだ。
二人の関係をそんなふうに見られるのだけは嫌だった。
体だけじゃない。心が繋がっている。
――ああ、でも……ってことは、やっぱり体も繋がってるんだな。
外科医は確かにセックスが上手い。
著名なAV男優がツイッターで呟いていた。男優よりもセックスが上手いのは外科医だと。ちなみに内科医は下手らしい。
理由は、体力と精神力があり、常に先回りして手と体を動かすのが当たり前で、状況を読む能力とそれを正しくアウトプットできる能力がきっちり備わっているためだ。
世間からはやっぱりテクニシャン玉川みたいに思われているのだろうか。
――嫌だな。
本当は真面目で一途な外科医なのに。
変な溜息が洩れる。
春馬は白衣についた染みを抜くため、外来棟にあるトイレに向かった。シャワー付きの洗面台がある特別な化粧室だ。中に入ると洗面台の前が車椅子の男に占領されていた。
――患者……だよな?
その男は両脚にギプスを装着していた。パジャマ姿だったが、鏡の前で必死に髪の毛を整えている。気に入らないのか、一度、整えた髪をぐしゃぐしゃにして、再度、櫛で髪を撫でつけている。大柄で野性的な顔つきがどこか玉川に似ていた。
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