『恋愛病棟 ‐シェーマの告白‐』番外編

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 店を出て、銀座の街を歩く頃にはお互い酒が回っていた。  朱鷺田と玉川はあの後、一切病院の話をしなかった。ゴルフがどうだとか老朽化した別荘がどうだとか、当たり障りのない会話を続けた。春馬はそのやり取りを少し離れた場所から見守っていた。また会食することを約束して朱鷺田とは店の前で別れた。 「銀座か。買い物でもする?」  玉川が軽い足取りで訊いてくる。 「特に欲しいものはないですけど。玉川先生はありますか?」 「あるある」  玉川が笑顔で顔を寄せてくる。 「右晋って名前で呼んで」 「またそれですか。そんなんじゃなくて、もっといいものをお礼にプレゼントしますよ。財布とか手袋とか」 「じゃあ、この後、ホテルでしよ」 「しよって……」 「うん。しよ? たまにはいいよね? 俺のお願いも聞いてよ」 「……いい……です……けど」 「やったー!」 「ちょっと……道の真ん中でそんな子どもみたいな喜び方しないで下さい!」  玉川は両手を上げて喜んでいる。かけっこで一等賞になった小学生男子の喜び方だった。慌てて両手を下げさせる。 「早く、行こうよ」  騒いだ自省はゼロの玉川に手を引かれて、傍にある外資系のホテルに入った。  玉川はキリッとした顔で堂々とジュニアスイートの部屋を取った。中に入ると家具やファブリックは品のある茶色で統一され、ジュニアといえども清潔なリビングルームがあり、落ち着いた雰囲気の寝室から美しい夜景が見えた。その光の粒を眺めていると小さなことはどうでもよくなってしまった。  部屋の中央で抱き締められてキスされる。それに軽く応えながら春馬は微笑んだ。 「お風呂、入れてきますね」 「うん」  バスルームはシャワールームとバスタブがそれぞれ分かれた作りで、ドレッシングルームからガラス張りの中が見えるようになっていた。バスタブにお湯を溜めて、足拭きを置く。出たところで玉川に捕まった。
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