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朝、目を覚ますとベッドの中にいた。
横を見ると玉川が子どものような顔で寝ていた。春馬を抱き締めながら規則正しい寝息を立てている。その顔が穏やかで、笑ったような口元が可愛かった。
「右晋……か」
いつもは呼べない名前を呼んでみる。
朱鷺田が憎からず玉川のことを可愛いと思う気持ちが分かる気がした。
硬い髪に手を伸ばし、指先で梳くように撫でてみる。
キリッとした眉も、閉じた瞼も、美しい顎のラインも愛おしい。ずっと見ていたいような気持ちになる。
――やっぱり好きだな。
こんな何気ない瞬間がたまらなく幸せだ。
不意にスマホのアラームが鳴った。
ベッドの中でうだうだしている玉川に声を掛けて朝の準備をした。シャワーを浴びてコンビニで買っておいた下着に着替える。スーツは無理だったが、Yシャツはホテルのクリーニングで間に合った。
「玉川先生、朝です。病院に行きますよ」
「うー、嫌だ行きたくない。春馬ともっとラブラブする」
「先生も準備して下さいよ」
「うー」
起こして準備をさせる。
ボサボサの頭を手で撫でてみたが、あまり意味はないようだ。
ようやく朝のルーティーンを終えた玉川と並んで革靴を履こうとすると、もたれ掛かるように抱きついてきた。扉はすぐ傍にある。
「嫌だ。行きたくない」
「そんな子どもみたいなわがまま言わないで下さい」
「もうちょっといる。もうちょっといたい」
「今日は午後からオペが入ってますよ」
「うー」
大きな体でネコ科の獣みたいに懐いてくる。慰めるように背中をヨシヨシと撫でると玉川が呟いた。
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