『恋愛病棟 ‐シェーマの告白‐』番外編

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 水窪春馬は入局二年目の後期研修医だ。消化器外科の専門医を目指して日々、奮闘している。  ある目的のために柏洋大学医学部付属病院の医局に入局したが、そこで一人の男に出会った。  ――玉川右晋(たまがわうしん)。  周囲からオペモンスターと呼ばれている、超一流の外科医。  神の手を持つ男。  外科医に対するその枕詞が当然と思えるほど、玉川の手技は素晴らしかった。速くて正確で、無駄な動きが一切なく、常に最短のルートでオペを終える。オペ場の雰囲気作りも上手く、助手の医師や麻酔科医、器械出しの看護師や臨床工学技士(ME)も一瞬で魅了してしまうほどのオペを難なくこなす。  初めて玉川のオペを見た日から、春馬もその手技の素晴らしさに心を奪われてしまった。  けれど、一筋縄ではいかないのが、この男の天才たる所以だった。  とにかく変わり者のドクターで、大学病院の医局に所属している臨床医にもかかわらず論文を一切書かない。必要のない総合カンファレンスや学会、事務局の会議にもほとんど出ない。オペのない日は、研究棟のベンチでぐうぐう寝ている。入院患者の中にはお仲間だと思って、ボサボサ頭の玉川に差し入れする者もいるくらいだ。いつも緩いスクラブ姿で院内をウロウロしているため、春馬は玉川を捕まえるたびに無理やりその上に白衣を着せていた。
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