『恋愛病棟 ‐シェーマの告白‐』番外編

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 そして、ヤクザのような厳つい見た目にもかかわらず、人懐っこく、すぐに他人に心を許してしまう。天才、変態と呼ばれても我知らず、いつも飄々としていて、時々、子どものように無邪気な笑顔を見せる。皆が想像するクールな天才外科医像とは程遠かった。  治療に対しては百折不撓、何があっても諦めない粘り強さでオペに取り組む。十時間以上、ぶっ続けのオペの翌日でも平気な顔でまたオペ場に入り、昼寝の時とは別人のようにシャキッとしている。  ――全く、訳が分からない。  長所と短所の見分けがつかない人間を、春馬は生まれて初めて見た。  ヨレヨレの玉川も、子どものような玉川も、オペ中の玉川も、全部同じ男なのだ。  ――でも……。  ――言えないけど、なんか可愛いんだよな。  美点も欠点も何もかもが魅力的で、男の全てが可愛いと思えてしまう。  雰囲気は大きな獣――野性の黒豹みたいだ。  無骨な見た目で怖いのに、背の高い大きな体でファンシーに(なつ)いてくる。治療に対して懐疑的になることはあっても、人に対しては素直で純粋だ。  今朝の目玉焼きを食べた後の笑顔を思い出して、思わず頬が緩んだ。  玉川は半熟の黄身が好きでその出来が完璧だと一日機嫌がいいのだ。  ――ああ……。これはやっぱりあれか。  ――恋をしているのか。  春馬はその男に恋をしていた。  今年、二十八歳になる春馬は九歳年上の天才外科医――玉川右晋と恋人として付き合っていた。
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