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「あれー、どうしたの?」
第二特別手術室にのんきな声が聞こえる。ちゃっかり手洗いを済ませた玉川が胸の前で両腕を緩くクロスさせながらオペ室に入って来た。器械出しの看護師がさっと近づいてその両手にインディケーター式のアンダーグローブを装着させる。腕を入れ終えた玉川はさらにその上から手術用の滅菌手袋を装着した。十秒も掛かっていない。完璧なフォーメーションだ。
「誰だおまえ」
「消化器外科医の玉川ですけど」
「許可なく、突然、オペ室に入って来るとは何事だ!」
青田は鼻息荒く玉川に食って掛かる。玉川はそれを聞くふりをしながら、ビジョンカートを眺めた。すぐに判断を決めて、傍にいる看護師に何やら耳打ちをしている。指示を出しているのはベテランのオペ看でフォローの上手い器械出しの水名だ。頷いた水名が速足でオペ室を出た。
「青田教授お疲れ様でした。俺が変わりますよ」
「ちょ……だからなんだ、おまえ――」
「このままだと確実に開腹になりますけど、どうしますか?」
「そ、それは……」
青田が言葉を濁す。
ラパコレごときで失敗して開腹したという噂が医局に広がれば、特別教授の地位は一気に落ちる。その後、どれだけ論文や教育指導で点数を上げたとしても、この汚点を消すことは不可能だろう。簡単に言ってしまえば、ここで開ければ教授としての面目は丸潰れになる。
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