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「梅田さんごめん。ちょっとビジョンカートの位置、変えてくれるかな」
「あ、はい。分かりました」
玉川が外回りの看護師に声を掛ける。ポートを直接、弄りながら溜息を洩らした。
「あー、胆嚢の剥離で手こずったのか。確かに癒着が強いな。胆管も損傷してるし、くそだなぁ。お、見えた。胆嚢動脈の分枝だ。水名さん、吸引して。水窪先生分かる?」
「はい。こっちで見えます」
「とりあえずダヴィンチくんの鉗子で把持しちゃって」
「分かりました」
春馬は3Dカメラが映し出す映像を見ながら動脈の分枝を把持した。ほどなくして出血が止まり、カメラの映像が鮮明になった。
「副胆嚢動脈を認識しないまま雑にエネルギーデバイスを使ったのか。んで、出血して術野が見えなくなって癒着の強い胆嚢床を剥離できなくなった、と。全く、しょうがないなぁ。とりあえず癒着はあるものの門脈側副血行路がなくてよかった。これで静脈もいかれてたら速攻アウトだったな」
肝外門脈閉塞が起きるとそれを迂回しようと別の血行路ができる。このバイパスは非常にやっかいで、細かく複雑な上に腹腔内でイレギュラーに広がるため場所の想像がつかない上、一度、傷つけてしまうと周囲から大量出血を起こす危険性があった。
「確かに胆嚢壁が厚くてちょっと癖あるな」
玉川が話しながら素早く手を動かす。
「剥離できそうですか?」
「うん、問題ないね」
「バイタル安定してます」
「ありがと」
「じゃあ、このまま切除するね。後で動脈の処理するからとりあえず、そこ結紮しといて」
「分かりました」
春馬が返事をする。
「そっちのポートから肝臓と小腸除けられる? 後腹膜が見えるぐらいガス入れて」
「はい。できます」
的確な指示のもとオペがスムーズに進んでいく。麻酔科医と看護師たちの息も合い、ようやくいつものオペの雰囲気が取り戻せた。ステレオビューワで玉川の動きを確認しながら手を動かす。
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