『恋愛病棟 ‐シェーマの告白‐』番外編

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『恋愛病棟 ‐シェーマの告白‐』番外編

 柏洋大学医学部付属病院の中央手術部、第二特別手術室にけたたましいアラームが鳴り響いた。  俗にロボット手術と呼ばれる、手術支援ロボット・ダヴィンチによる胆嚢摘出術の最中だった。 「くそ、血液で画面(モニター)が見えない。外科チーム吸引しろ!」  鳴り物入りで入局した若い特別教授――青田がコンソールの操作席から叫んでいる。青田の額には汗が滲んでいたが、術野を汚す心配もないため、その汗を拭く者もいない。医師の焦りに反して、場の空気がどんどん白けていく。  外科チームの第一助手としてオペ室に入った水窪春馬(みずくぼはるま)は青田の指示を聞きながら、サポートの手順を考えていた。 「どっから出血してるんだ。吸引を続けろ! 手を止めるな」 「はい」 「おい、吸引管が邪魔だろ。必要以上にカメラのポートに寄せるな。助手は術野確保(CVS)を優先しろ!」 「分かりました」  春馬はペイシェントカートの傍で吸引を続ける。患者が腹腔内で激しい出血を起こしているため、青田はアームの操作もままならないようだった。  ――参ったな。  青田の様子を眺めながら心の中で呟く。  ――モリソン窩の奥をやっちゃったかな。  開腹手術の場合、比較的容易に出血点を探し当てられるが、ダヴィンチ手術は視野が限られるため、複数の血管からの出血となると止血するのが難しくなる。  怖いのは静脈からの出血だ。  動脈の出血は勢いがあるぶん探しやすく、太い血管を鉗子で把持してしまえば出血は止まる。それに対して細かく網の目のように張り巡らされた静脈からの出血は、その複雑さから止血が容易に行えない。圧迫による止血を行うにしても、カメラ一本・鉗子三本で行っている腹腔鏡下では直接的な圧迫も行えなかった。
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