都橋探偵事情『喇叭』

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送り迎えするのは妻の妙子である。三輪ミゼットの荷台に乗り桜木町のアパートまで帰る。 「あんた、そろそろここを引き払って郊外で畑でもやろう」  箪笥預金は家が購入出来るほど貯まっている。 「もう少し稼いでからにしよう。それにもうじきあのガードもなくなるらしい。それまで女子供の監視役をしていよう。金は入るし子供は守れるし悪いことはひとつもない。五体満足の時はさんざん貧乏して、片足無くしてから贅沢出来るようになった。どこでどうなるか人生なんて見通しは立たないもんだ」 「そうだねえ、あんたは足無くしたから帰って来れたんだもの。終戦までいた人はみんな死んでしまった。横浜大空襲で家は焼かれたけど命があってここまで来たんだ。子供達の監視役で神様に恩返しするのが当然かね」  夫婦は同時に頷いた。 「誰か来たのか?」  丸山は熨斗の張り付いた箱を見て妙子に聞いた。 「そうそう、あんたより少し下かねえ、でも四十は過ぎてるかな、それが赤シャツに白の背広着てさ、昔世話になったとか、今度ガードに挨拶に行くってこれ置いて行ったのよ」 「名前は?」 「それがさ、急いでいるって言わずに行っちゃったのよ」 「赤いシャツに白の背広?やくざじゃねえのか。ガード下のこと話したのか?」  妙子は頷いた。丸山はやくざと付き合いはない。ガード下の演奏で投げ銭するやくざ風の男はいるが口も聞いたことがない。
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