都橋探偵事情『喇叭』

5/239
85人が本棚に入れています
本棚に追加
/239ページ
どう見てもサラリーマンには見えない。一人は赤シャツに白の背広で痩せ方。もう一人は白のダボシャツにブレザーを引っ掛けている小太り。徳田はゆっくりと歩いて素通りした。男はじっと徳田を見ている。宮川橋の階段から下りて走る。橋を渡り福富町西公園の木陰から男を観察した。どう見ても堅気じゃない、十五分ほど手摺に凭れていたが煙草の箱を丸めてどぶ川に投げ捨てて帰った。間違いなく事務所に用があった。看板を見て訪ねて来たに違いないが初仕事がやくざ絡みじゃ縁起が悪い。無難に金持ちの浮気調査で少し資金を貯めたい。道子の世話にばかりなっていられない。稼いで何か買ってやろう。  商店街の二階で飲み屋以外昼間の商売はこの事務所と中央部に結婚相談所がある。結婚相談は表向きで裏では売春斡旋業をしている。主人と目が合う。徳田は挨拶に行く。 「今度、興信所を始めた徳田と言います。まだ名刺も出来ていないんですけど宜しくお願いします」 「そう、探偵さん。探偵さんは独身かな、だったらうちに登録しなさい。いい娘がたくさんいるよ。いい男だしまだ若いし、どうだい、写真だけでも見ていけばいい」  引っ張り込まれるように店内に入った。派手な化粧の女が事務机に脚を放り投げている。ストッキングが膝の辺りで伝線している。ガムを噛みながら煙草を吸っている。 「あんた探偵でしょ、立て看板倒れていたからあたいが直しておいたのよ。駄目よこの廊下風が強いから釘止めしなきゃ。看板飛んでどぶにポチャンじゃ探偵上がったりじゃん」  女は黄色い歯を剥きだして笑った。 「ほら行儀が悪いぞ日出子。お客さんが来てるのに何だその格好は、いつまで経っても結婚出来ないぞ」 「ふん、あたい出掛ける、パパお小遣い」
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!