都橋探偵事情『喇叭』

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 横浜大空襲の中を五歳の二人は逃げ延びた。特別に仲が良かったわけではないが、雨あられのように振って来るナパーム弾の中を同じ死体を踏んで逃げたことが腐れ縁になっている。 「どうだ目途は付きそうか?」 「目途ってなんだ?」 「探偵で食って行けそうかってことだよ、お前も感が悪いね」 「まあ何とかなんだろ、今はヒモみたいなもんだ。三年やって駄目なら画廊の主人になろう」 「そんな呑気で道子がいつまで待ってくれるか、プリンスが現れて攫って行かれるぞ」  実際道子には見合い話がひっきりなしに来ているらしい。写真を見る前に断っている。徳田への思いがぐらつかないようにしていると聞いた。しかし徳田に甲斐性はない。道子の父も生活力があるならいつでもくれてやると言っている。惨めな娘は見たくない、ぎりぎりでも二人で暮らしていける収入があればいい、それが今の徳田には欠けている。 「どうして俺なんかに尽くしてくれるのかな。いい男と一緒になってくれりゃその方が俺も安心なんだが」 「のろけてんじゃねえよ」 「俺より西はどうなんだ、刑事になんかなっちゃって、交番のおまわりさんでいた方が安全でよかったんじゃねえか」 「俺は正義の味方だよ、正義の味方がおまわりでくすぶっていてどうすんだ。月光仮面が悪党前にして逃げるか」 「その割には成り立てから悪党とグルになりやがって」 「ケースバイケースってアメ公から教わった。でも進駐軍も減ってパンパンガールも少なくなった。売春見逃して袖の下じゃ情けねえしな。さーて一回りして酒代稼ぎでもしてくるか」  
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