泥棒がサンタクロース

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 ただ悲しげに微笑むだけの奏ちゃんを置いて、部屋を出る。玄関をくぐると、家の外壁にもたれて、パジャマ姿の弦哉が待ちぶせていた。 「何してるの。風邪引いても知らないよ」  わたしはいつも通りを装って、まだ髪が濡れたままの弦哉を追い越す。その背中に、弦哉が言葉をぶつけてきた。 「もう、兄貴を解放してやってよ」  わたしは怒って振り返ったつもりだけど、心の中が砕けたようになって、涙が出そうになっていることに、自分で驚いた。 「意味わからない」 「嘘だ。本当はわかってるんだろ?」 「何が」 「兄貴が小夜子を拒まないのは、小夜子が可愛いからだ。傷つけたくないから。でも、それは恋愛の感情じゃない」  弦哉は腕を組んでいる。だけど、偉そうに見せていると言うより、胸で爆発しそうな何かを、懸命に抑えようとしているみたいに見える。 「わたし、奏ちゃんが好きなの。大好きなの」 「わかるよ。兄貴だって小夜子のことが好きだ。でも、違う」 「違うって何!? そんなの、弦哉にわかるわけないじゃん!」  お隣の家の真ん前なのに、奏ちゃんに聞こえるかもしれないのに、わたしは大きな声を出していた。
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