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「わたしは奏ちゃんが好きで、そばにいたいだけなの! 奏ちゃんだって、本当に嫌なら嫌って言うよ! 第一、弦哉にそんなこと言う権利ない!」
「あるよ」
普段の弦哉からは想像できない弱々しい声を、白い息と一緒に弦哉はしぼり出した。
「権利は、ある。それと……わかる。ちゃんと恋愛感情で相手に向き合っているのかどうか、オレにはわかるよ」
わたしの身体がカタカタ震える。寒いのもあるけど、それだけじゃない。
わたしは悔しくて、何に対してそんなに屈辱感を憶えているのか、もうわからないほどで、弦哉が吐いた言葉の意味も深く考えられなかった。
「奏ちゃんを放したくない! 奏ちゃんが本当はわたしを好きじゃなくたっていい! 奏ちゃんを失いたくない!」
気がついたら、駄々っ子みたいなことをわめいていた。
弦哉はこれ以上わたしと話してもムダだと思ったらしく、ひときわ大きな白いため息を吐き出したあと、壁から背中を剥がす。師走の気温にすっかり冷やされた髪の毛を触りながら、家の中に戻ろうとした。
「……クリスマスの一週間前から、同じ会社の女性の先輩に、会社でやるパーティーの準備を一緒にって頼まれてるんだ、兄貴」
「えっ……?」
「パーティーにも一緒にって誘われてるって、すごく辛そうに打ち明けてくれた」
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