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弦哉はこちらを向いた。自分こそ辛そうな顔で、無理やり笑っている。
「自分のために断って欲しいって、小夜子は本当に思えるのか?」
クリスマスの一週間前。
明るい夜。とっくにお仕事は終わっているはずなのに、いつまで経ってもお隣の玄関の前に現れない、背の高い影を、二階の自分の部屋の窓から探していた。
お母さんの、もういいかげんお風呂に入りなさいってセリフを、ドア越しに三度目に聞いた時。わたしは膝を折って、ずるずるとその場にしゃがみこんだ。
布団の中に入っても、目を閉じても、耳だけは窓の外に傾ける。
奏ちゃんが選んだのは、わたしではなかった。理解したはずでも、針でつついたみたいな細やかな光に、まだどこかですがっている自分がいた。
その音を聴いたのが、それからどのくらい過ぎてのことだったのか、よくわからない。わたしは、いつのまにかウトウトしていたらしい。
窓の外で、何かがきしむ音がした。地震かもと思ったけど、そのわりにはベッドが揺れていない。
奏ちゃんのわけがない。ひょっとして、泥棒かもしれない。そう思うのに、わたしは立ち上がって窓のそばに寄った。カーテンを開ける。
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