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わたしが目にしたものは、今まさにベランダをよじ登ってきたといった状態の、手すりに片足を引っかけた弦哉だった。満月の明かりで、頭にサンタクロースの赤い帽子をかぶっているのが、よく見えた。
弦哉のほうでもわたしに気づいて、驚いた拍子に後ろへ倒れ込みそうになるから、わたしは慌てて窓を開けてベランダに飛び出る。間一髪、弦哉の手首を取った。
わたしに引きずられるようにして、ベランダに降り立った弦哉は、息を弾ませながら、チラチラと上目遣いで言った。
「……オレじゃ、だめなのか?」
「……ふぇ?」
わたしは、弦哉が落ちずに済んだ安堵と驚きで、混乱していた。
「オレ、兄貴とちょっとは似てるし、似てなくても、これから近づけるように頑張るから、だから、小夜子を奪いにくるの、オレじゃだめか!?」
それを聞いた瞬間、わたしはパチンと目が覚めた気分がして、弦哉の気持ちがハッキリわかった。
弦哉は、わたしのサンタクロースになりたい。弦哉にとって、わたしはかけがえのない存在なんだって、伝えにきてくれたんだ。
「……だからって、まだ十七日だよ。クリスマスの一週間も前」
「し、しかたねぇだろ。兄貴は帰ってこないし……今頃、小夜子が一人で泣いてるんじゃないかって思ったら……たまらなくて」
うつむく弦哉の顔が、真っ赤になってゆがんだ。
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