泥棒がサンタクロース

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 わたしは、音楽は奏ちゃんから借りるCDを聴く派なので、スマホで聴くことは滅多にない。定額で聴き放題のプランに興味はないけど、たまにはポップスもいいなと思って、きーちゃんの隣に立った。  クリスマスの曲と言えば、やっぱり可愛らしくてハッピーなメロディが定番だ。奏ちゃんが貸してくれるのは、激しめのロックばかりなのだ。  きーちゃんは片方の耳からイヤホンを外して、差し出した。わたしは、それを左側の耳に押し込む。  聴こえてきたのは、かなり昔のクリスマスソングだ。メロディは、この時期になると、ショッピングモールなんかでよく耳にする。でも、歌詞付きで聴いたのは、これが初めてかもしれない。 「サンタクロースの正体は、恋人だって言ってたんだね、コレ」  最後のサビが終わったところで、わたしは言った。あとで考えたら、それは曲の感想でも何でもない。 「でもさ、どっちかって言うと、誘拐犯に近くない? 拉致とか」 「小夜子はロマンチックと対極にいる女だ」  きーちゃんはイヤホンを外して、ケラケラと笑った。 「そんなことない。奏ちゃんにだったら、誘拐でも拉致でもいい、今すぐ迎えにきてもらいたいもん」 「迎えに」の意味が、「学校の正門まで」とか、「二人で遊びにいく時に家の玄関まで」とかではなくて、いわゆる「お嫁さんとして」であるということを、きーちゃんはすぐに察した。
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