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仏頂面をしていた弦哉の顔が、微妙に変化した。急にバツの悪さを滲ませて、チラチラとわたしの後ろを気にする視線になったから、ピンときた。
「奏ちゃん?」
パッと振り返ると、スラッと背が高くて、穏やかな笑顔と目が合った。
カーキのミリタリージャケットに、黒のスッキリと細身のパンツを穿いた奏ちゃんが、住宅の間を通る細い道をゆっくりと歩いて近づいてきた。
「どうしたの? 小夜子、と弦哉」
奏ちゃんは小首をかしげる。
きっと、わたしが不満を散らかした顔をしていたせいだ。目の前に到着するのをどうにも待ち切れず、わずかな距離を走っていって、長いその腕にしがみつく。
「どこ行ってたの?」
「本屋だよ。欲しい新刊があったから。街まで出て、ついでにお茶してきたんだ。平日だし空いていたから、つい本を読みふけっちゃって」
裸で持ったハードカバーの小説を掲げてみせる、奏ちゃんのどこか女性的な笑顔は、子供の頃から変わらない。わたしはほっとする。
「ねぇ、奏ちゃん。今年も、クリスマスに一緒にいてくれるよね?」
わたしはすがるように奏ちゃんに訊いた。
「……小夜子が、そうしたいなら。もちろん」
ほら。奏ちゃんは、いつだってわたしを何より優先してくれる。
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