泥棒がサンタクロース

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 わたしが生まれた時にはもう、奏ちゃんはお隣にいた。一般的に言うところの幼馴染みだけど、違う。そんな目で見たことは、一度もない。  例えば、わたしが学校に必ず着ていく制服みたいなもので、わたしにとって不可欠な存在。制服が、もし何かのアクシデントで身につけられなくなったとしたなら、その日以降、わたしは学校へ行けなくなる。  制服は、この世界に生きる「わたし」のアイコンだ。今現在の役割を表して、価値を示すもの。失くしたら、「わたし」というアイデンティティーさえ不確かになってしまうだろう。  アイコンは、年齢は立場によって移り変わる。だけど、そのどんな時でも、奏ちゃんは、わたしにとって常にそういう存在だった。 「奏ちゃん、大好きだよ」  わたしは事あるごとに訴える。  その言葉に込められた意味は、幼馴染みとして、ましてや近所の頼りになるお兄さんとして、なんてものではもちろん、ない。 「ありがとう、小夜子。嬉しい」  奏ちゃんは、いつでもそう言って受け止めてくれる。その返事と笑顔は、もう何年もほとんど変わらない。  そのたび、目の端に涙が滲んできてしまうくらい胸がギュッと痛くなって、生まれてきてよかったって震えるくらいの幸せが、百五十五センチのわたしの中に満ちる。  ただ、それだけだったはずなのに。この頃、少しだけ切なさが追いかけてくるのは、どうしてなんだろう。
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