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ムートンのブーツもテディベアも、その時のわたしを満たした。でも、次の年には決まってまた物足りなくなる。
それは、わたしが本当に欲しいものが、いつだって別にあるからだ。それが手に入らない限り、心から満たされる日はこない。今になって、やっとわかった。
「わたし、奏ちゃんが欲しい」
吐き出した言葉に、奏ちゃんの顔が一瞬凍りついて見えた。ドキッとするけど、すぐにゆるりと溶けるようにして、静かに目尻が下げられる。
「……オレは、ここにいるでしょ。どこにも行かないよ」
「そうじゃなくて」
わたしはプルプルと首を振った。
「ねぇ、奏ちゃん。わたし、十六になったの。ねぇ、わかる? もう少ししたら、法律が変わってしまうって、わたし知ってる」
奏ちゃんの目を、じっと見つめ返して話すわたしの頭の中に、放課後、きーちゃんから聴かせてもらったメロディが鳴り響いていた。
「だから、お願い。その前にわたしを迎えにきて、奏ちゃん」
「……小夜子、あのね」
「わたし、奏ちゃんが好き。大好き。子供の頃から、奏ちゃんしか見えていなかった」
わたしの言葉に、何かを言いかけた奏ちゃんは、口を閉じた。
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