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実夏から連絡が来たのは先月のことだった。
『夏休みに大阪に行くんだ。そっちのクラブも大阪に来るんだよね? ちょっとだけでも会う時間とかあったらいいね』
そのメッセージは、智也にとって神々しく光り輝いているようにも思えた。予想もしていない連絡に浮き足立っていることが自分にもわかった。
確かめてみるとちょうど最終日だけ、実夏のスケジュールと重なっていた。
少しだけ悩んで、梅田駅での待ち合わせを決めた。
クラブチームに嘘をついて、智也は単独行動を取った。
そして、待ち合わせの十六時。
夕方の人がごった返す改札口に実夏はいた。
長い髪は昔と変わらないが、少し茶色がかっていることに気がついた。光のせいなのかもしれない。相変わらず
智也は実夏に近づく。
「久しぶりだね」
「だね。元気だった? なんか背伸びた?」
実夏が言った。二年前、小学六年の頃は実夏が十センチ近く背が高かった。しかし、二年振りに会う二人の目線はほとんど同じだった。
「うん、ちょっと伸びた」
「なんか日焼けしまくってるし、相変わらずサッカー少年って感じだね」
「そうかな。実夏も元気そうでよかった」
「うん……、そうだね」
一瞬、実夏の表情が曇ったような気がしたが、すぐに笑顔を浮かべたので智也は気にしないことにした。
二人は梅田駅から程なく近い空中庭園まで歩いた。
お互いの三年間のことをいろいろ話しながら、智也は遠征の疲労も忘れるぐらいに話が弾んだ。
「陽は、元気?」
智也は実夏と同じく幼馴染である岩瀬陽の名前を出した。
「うん。元気そうだよ。中学違うからあんまり会わないんだけどさ」
成績が優秀な実夏は親の方針もあり、私立中学に進学し、陽は地元の公立中学に進んでいる。
「サッカー部の改革とかしたみたいだよ」
「改革?」
「うん。一年は試合に出れなくて、二、三年しか出られない仕組みを変えたりしてね、うまい子なら一年でも出られるようにしたんだって」
「あー、そういうことやるのが陽っぽいよね」
小学生の頃からリーダーシップのあった陽の姿を思い出し、智也は笑みが溢れた。
「変わってないみたいでよかった」
智也がそう言うと、実夏は黙った。
どこか憂いを含んだ表情だった。それは小学生時代の実夏が見せたことはない表情だった。
「実夏?」
智也が声を掛けると実夏は笑みを浮かべて、顔を横に振った。
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事してた」
その笑顔がどこか無理をしたものであると智也にはわかっていた。しかし、そこには敢えて触れないことにした。
これ以上、「どうしたの?」と聞いても実夏は何も答えてくれないとわかっていた。
「そっか」
そう言うと、智也は再び歩き出した。
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