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「なんか喉乾いたね。自販で飲み物買ってきていい?」
考え事をしていた智也は、実夏の言葉でハッと我に返った。
「いいよ。オレが買ってくるよ」
「あ、マジで?」
「とか言って、オレが行くこと想定してたろ?」
「あ、バレた?」
実夏がいたずらっぽく笑った。智也は「バレバレだろ」と言いながら、ショルダーバッグを足元に下ろし、財布だけを取り出した。
「どんなのがいい?」
「炭酸系」
「OK。ちょっと待ってて」
智也は少し離れたところにある自動販売機に見つけた。
その自動販売機に向かって歩きながら、智也は考えた。
今の自分はサッカーを続けたいのかと。
ユースに上がれないのならば、どの高校に進むかを考える必要だってある。待っていても誰も助けてくれないことはわかっている。
ただ、自分がどうなりたいのか、智也にはわからなかった。
自動販売機でペットボトルに入った飲み物を二つ買った。冷たい感覚を右手に持ちながら戻ろうとすると、実夏の横に二人の男がいることが見えた。
智也は小さく溜め息をついた。
そして、実夏のもとに駆け寄った。
「智也!」
実夏が智也に気がついた。
その表情を見て、瞬時に智也の感情が切り替わった。
「……何してるんですか?」
智也の言葉に男二人が振り向く。
自分たちより年上だろう、と智也は思った。
二人とも背は智也より少し高く、色黒だった。指輪やピアスを付け、目が痛くなりそうな服の色味はいかにも派手だった。「チャラチャラしてる人だな」というのが智也の印象だった。
「この人たちが……」
実夏の声に智也は頷く。
「何が目的か知らないですけど、彼女困ってるみたいなんで、やめてもらえますか?」
言葉は丁寧だが、声はいつもより低く重いものだった。
実夏はその目に普段とは違う『強さ』のようなものを感じた。
「なんだ、このガキ」
一人の男が智也の左肩を押した。
しかし、その動きが予見できていた智也はたじろぐことはなかった。外見上は細身かもしれないが、鍛えられた体幹は簡単には揺るがない。
冷たい表情で智也は押した男を見た。
「チッ」
男は舌打ちをして、その場から離れていった。
男二人が遠ざかることを見届けてから、実夏は智也に駆け寄った。
「ありがとう、智也。あいつら急に『一人で何してんのー?』とか話しかけてきてさ」
「何かされなかった?」
表情の固い智也は少し低めのトーンで実夏に問いかけた。
「え? うん。声かけられただけ……」
「そっか。それなら……よかった」
固い表情が緩み、智也はいつもの笑顔を実夏に向けた。
「智也がいてよかったー」
安堵の表情を浮かべた実夏が智也の左肩に額をつけた。
実夏のサラサラとした髪が揺れた。
智也がその髪に触れようとした時、急に実夏が額を離した。実夏は少し驚いた顔をしていた。
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