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「どうしたの?」
「なんか……、智也の身体って固い!」
「え……」
実夏は智也の肩や胸をペタペタと触った。
「なにこれ? 筋肉? いつのまにこんな風になってんの? だからさっきあんなのに押されても平然としてたの?」
「そりゃあまぁ……、鍛えたりしてるからね。あれぐらいなら平気だよ」
「すっごいんだねー。昔はヒョロヒョロしてたのに……。いつのまにこんなになったの?」
「うまくなるためになら……、何でもやってきたからね」
「なんか智也は、天性っていうか才能っていうか、そういうのでやってるんだと思った」
「まさか」
智也は笑った。
「天性とか才能だけでやってこれる程簡単じゃないよ。小学生の頃から必死にやってきた。サッカーは好きだったから。好きなことで負けたくなかったから」
「そういえば……、いつもマンションの前の公園で陽と二人でサッカーしてたね」
その言葉で頭の中に遠い記憶が蘇った。
暗くなるまで陽とボールを蹴っていた頃のことを。
その光景を見ていた実夏に「サッカーバカ二人だね」と言われたことを。
「そんな頃もあったね……」
「なんか変なこと言った? 私?」
智也は首を横に振る。
「そんなことないよ。あの頃は楽しくやってたんだなって思い出しただけ。陽と毎日真っ暗になるまでやってたなぁって思い出した」
「今は楽しくないの?」
「今は……怖いのかもしれない」
「怖い?」
「また怪我したらどうしよう、ここで取られるんじゃないか、この相手を交わすことできるのか、そんなことばっか考えてる。周りはうまい奴ばっかりだし、年下の奴にレギュラーは奪われていくし……、サッカーするのが最近怖くなってきてる」
「ふーん……」
実夏は軽く二度頷いた。
「悪いけど、この流れで私は慰めたりしないよ?」
「だろうね」
智也は笑った。自分が落ち込んでいる時に実夏は慰めてくれるような子ではないと幼い頃から知っていた。
「そんなヤサシクナイ私に、今の気持ちを話しちゃうぐらい智也は追い込まれてるんだっていうのはわかった」
「……うん」
「そこを踏まえて言うけど」
「うん」
「智也は贅沢だね」
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