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私がママとこの田舎町に引っ越してきたのは、去年の秋のこと。
パパとちゃんとした別れが出来なかったことだけが、唯一の心残りだった。
「そう?ばあちゃんにしてみれば、今の美桜のお母さんこそ昔見てたあの子のまんまやけどねぇ」
タオルを畳む手が止まる。
「お母さんは多分、向こうでは頑張りすぎとったとやろ。美桜のお母さんとして、家を守る妻として、私がしっかりせないかんって頑張りすぎとった感じがするよ」
私の知っているママは、しっかり者で、綺麗好きで、無駄なことが嫌いな人だった。
「昔から、どこか抜けとるっていうか、ボーッとしとるっていうか。部屋だって散らかり放題やったし、休みの日はゴロゴロするばっかりやったよ」
まるで別人の話をしているようなおばあちゃんには、私のびっくり顔が面白かったらしい。
「今のお母さんも、認めてあげてね」
そう言って柔らかく笑うおばあちゃんに、どこかママの面影を見たような気がした。
首をひねって、玄関の辺りを掃除しているママを見る。
普段通り几帳面に拭き掃除をするその姿は見慣れたもので、でもその表情はやっぱり向こうにいた時とは違っていた。
引越しをする頃くらいの沈んだママを思い出して、思わず眉間にシワを寄せる。
「これで良かったんだね」
呟いた声が聞こえたはずなのに、おばあちゃんは何も言わなかった。
おばあちゃんはきっと気づいている。
私はまだ、お父さんと離れたことを受け入れられないでいる。
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