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次の日、僕はなんとなく、また中庭に行ってみた。
昨日の衝撃を引きずっていたからだ。
今度は何処にもセンというあの痛々しい車椅子の少女は居なかった。
もしかして病室にでも居るのかと思って診察エリアの階に行ったが見つからず。
そんな僕を見ていたのか昨日とは違う施設の人が声をかけてきた。
「何?君、誰か探してるの?」
「センって子を探してます。」
「へぇ!?」
怪訝な顔をされた。
昨日の施設の人を探した方が良いだろうか。
この人はどうも僕があの子を探すのにとても『妙な感情』を持っているようだ。
「わからないなら、大丈夫です、失礼します。」
「………あー、待って待って、ごめんごめん。」
怪訝な顔をした事で何か思う事があったのかその人は少しバツが悪そうにしながら笑って。
「あの子ならよく中庭にいるよ、あとたまにちっさい子供達の遊び場、食堂にも極稀に、でも色んな所フラフラ出来る訳じゃないからすぐ見つかると思うよ。」
頑張ってね、と手を振られた。
少し不満はあったが礼を言ってから探しに行く。
遊び場、食堂、その他、色々な場所を探していると途中の廊下で曲がり角を車椅子が曲がるところが見えた。
僕は急いで追いかける。
あのセンという少女はそこに居た。
割とゆっくりとした動きで不器用に手を滑らせながら車輪を回している。
握力が弱すぎるのか中々前には進めない。
僕はその様子に我慢できなくなって車椅子を押した。
センがこちらを振り返る。
あー、うーというような言葉にならない声を出している。
「言葉がわかるなら教えて、連れてくよ。」
その言葉に全く反応を示さなかったので恐らく意味はわかっていないだろう。
それでも彼女の行きたい場所を知る手がかりはあった。
僕は廊下をある程度押して分かれ道にくると手を離した。
するとセンはやはり、自分の手で不器用に車椅子を漕ぎ始める。
僕はそれを暫く見た後、どちらの方向に行きたいのか大体わかるくらいになるとその方向に押していった。
その度に何を考えているかわからない目線がこちらに飛んでくる。
それを繰り返して僕は彼女の行きたい場所へ連れて行った。
先程センを探しに行った遊び場へ向かっていた。
そこに着くと彼女は何をするでもなく笑っていた。
小さい子達がぎょっとする。
明らかに歓迎はされていない。
ぞろぞろと子供達が彼女を避けて遊び始めた。
セン本人はというと全く気にしない様子で笑い続けている。
向こうからそれを見ていた子供の一人が僕に向かって歩いてきて怒った様子で言った。
「あの気持ち悪い子どっかいかせて!なんで連れてきたの!?」
明確な拒絶の意思。
僕は笑い続けているセンを見て少しの罪悪感を感じたが本人が行きたいと望んだ場所に連れてきたのだからそれを僕や他人の意思で変える事は無理だとも感じた。
その子は僕が気まずそうにしながらも全くセンをここから連れて出す様子がないと判ると睨んで向こうを向き、そのままセンの車椅子を蹴り飛ばした。
「な、何をするんだ!?」
僕は慌ててセンに駆け寄ると車椅子を立たせて元に戻した。
が、倒れた際に腕の打ち所が悪かったのか幾つか刺さっている注射針が抜けたり逆に深く刺さりすぎたりして腕から血が出ている。
「ふ………ふん!!!そんな気持ち悪い奴、連れてくる方が悪いんだ!!!」
震える声で怒りながらその子は逃げていった。
センは笑い声こそ止んだがニヤけて焦点の合わない顔で不気味な表情を浮かべている。
腕を怪我をした状態なのに痛みすら感じていないようだ。
昨日も凍死するかもしれない状態でずっと中庭に居たようだし、痛覚や感覚がかなり麻痺しているのかもしれない。
精神疾患というより、最早これは………。
僕は暗い気持ちになりながら腕を医師に見せる為に診察エリアに向かった。
「いやはや、連日助かったよ、ありがとうねエンジュ君。」
ベッドに寝かせられ呼吸器をつけられて意識を失っているセンの横で医者が僕にそう言った。
「注射針が外れていたりして必要な薬剤が身体に行き渡ってなかったからね……抜けたままだと危険だった。」
「はい………ここに運んでくる間にも衰弱してて………あの、センはどんな疾患なんですか?」
たまらず質問すると困ったような顔をして医者は言った。
「個人情報は詳しくは教えられないんだ、ごめんね?規則でね。」
僕はその日ミナイ・センが起きるまで見ているつもりだったが結局目を覚まさず就寝時間になったので部屋に帰された。
僕は一人その夜虚しい気分で寝れなかった。
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