16人が本棚に入れています
本棚に追加
5ぺ~じ 結婚してっていったけど
翌日、とても気まずいラジオの収録がはじまった。なぜなら、かのちと一緒の番組だからだ。昨日からお互いに連絡をとらず、今日もひとことも口を利かず、どうにもこうにも気まずかった。
かのちは私と目を合わせてくれなかった。
収録自体はいつも通り滞りなく終わった。気まずかろうと私もかのちもプロである。ただ何となく様子がおかしいことに共演の長橋幸也さんとスタッフさんたちは気づいていて、「だいじょうぶ?」「ひょっとして喧嘩した?」と耳打ちされまくった。
収録後、いつもなら時間の許す限り話し込んでいくかのちが、挨拶もそこそこに帰ろうとしていた。まずい。怒らせてる?
だとしたら、いつ謝るの? いまでしょ。私は一念発起、かのちを呼び止めた。
「かのちゃん、待って。……その、昨日の事だけど」
我ながら声が小さい、かぼそい。それでも声優か。がんばれ私。女は度胸。
「急に変なメールしてごめんね。テンションあがっちゃってチャット感覚で書いててうっかり送信しちゃったんだけど、その、変な意味じゃないから。なんていうかほら、アレだから」
アレってなんだよアレって。如月リリィは語彙が無い。あーもう、ほんとどうしよう、どうしたらいいですか。
「結婚してっていったけど、なんていうかほら、ほんとの結婚は現行制度的にもできないわけで。ああいや、海外いけばできるかも……じゃなくって、つまりその、結婚したいくらい大好きだから。ほんとにほんとに大好きだから……きらいにならないで……」
言葉の迷路に迷い込んだ私はもう何が何だかわからなくって、恥ずかしさのあまり、それ以上なんにも言えなくなった。
どれくらい時間がたったかわからない長い間のあと、ようやくかのちが喋ってくれた。
「ごめんなさい。織枝ちゃん、ほんとにごめんなさい」
ですよねー。アハハハハハハ。本名、山田織枝、30歳、独身。こんな私と結婚してくれるわけないじゃーん。……え、私フラれてる? 本気でプロポーズされたと思ってるの、かのち!?
「あのね、まだ心の準備ができてなくて。いまはお返事できないの。だ、だから、もう少しして、あたしが落ち着いたら、改めて返事するから。だからいまはごめん……もうすこし待ってて」
かのちは耳まで真っ赤だった。
最初のコメントを投稿しよう!