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別に、意地を張っている、というわけではない。先ほどまで彼らが乗っていたアトラクションの方を見つめながら、朝日は思う。どうにも自分は、周囲の者達からは“仏頂面”に見えて仕方ないらしかった。長い付き合いの真知には多少表情が読み取れるらしいが、それでも“表情筋が固い、凍ってる”と散々言われてきた朝日である。
本人としては、全くプライドがないとは言わないものの――それなりには楽しんでいるつもりでいるのだが。どうにもそのあたりが、周りに伝わっていないらしい。同時に。
「楽しんでないわけじゃない。……ただ、仕事を忘れてないだけだ。先生の預言に出た場所は今日のこのあたりだろう?僕達が那須に修学旅行に来たタイミングだ、っていうのが出来すぎてるけどな」
本分を忘れるな、と言外に告げれば。がっくりとわかりやすく肩を落とす真知である。忘れておきたかったのにー、と言わんばかりの態度だ。
「やめてよー、せっかくレジャー気分で楽しんでるのにさー。なーんで修学旅行に来てまでオシゴトせにゃならんのよ」
「知るか、あちらさんに聞いてくれ。まあこっちの都合なんか配慮してくれるわけもないんだけどな」
「うー」
修学旅行が那須であるのは、うちの学校では伝統である。東京の大半の学校が京都奈良だったり、場合によっては沖縄であったりするところを鑑みるなら、わりと珍しい部類であるのかもしれない。距離も、そちらと比べると比較的近いと言えるだろう。それこそ海外へ行くというケースも珍しくないと聞く。
一部の生徒には“どうせならもっと遠くて面白いところに行きたい!”なんて不満もあったらしいが。朝日からすれば、この那須という場所は空気も綺麗だし避暑地としても非常に良いスポットなので存外気に入っていた。観光地として人気が高いだけのことはある。勉学になっているかは別として、遊園地で遊べるのはクラスメート達にとっても楽しいことだろう。不満をぼやいていた連中も、こうして遊びに来てみれば夢中でアトラクションを楽しんでいるのだから何も問題あるまい。
今日は比較的空いていた、というも有難い点だ。むしろ、時期を鑑みるならやや空きすぎているようにも思う。今日は暑いが、連日真夏日が続いた一週間前と比べれば夏日で収まる格段に涼しい部類だ。多くの学校がまだ夏休みに入らない時期とはいえ、こう人が少ないのには何か理由があるのだろうか。自分達の学校で貸切、なんてこともやっているわけがあるまいに。
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