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ひとつの夜に 青柳 哲也
夜の帳が下りた街は、相変わらず賑やかでクリスマスまでのカウントダウンを楽しんでいる。
澄んだ空気の中でのイルミネーションは美しく、こんな状況じゃないなら俺も楽しんでいただろう。
ごった返す人と車はこのイルミネーションのお陰でかなり時間を使い、漸く渋滞を抜けていつもの駐車場に車を止めるとコートを着て普段は歩かない街へと向かった。
聞いていたチェーン店の寿司屋を見つけ足を止めると、その隣に建つ目的地の雑居ビルを見上げた。
隙間に建てられたような五階建てのビル、そのビルの二階にある雀荘に蒲田がよく出入りしていると教えてくれたのは、片野ユーマだった。教えてくれた……聞き出したの方が正しいかもしれない。
あの日、風邪だと言った有を驚かせようと買い物してから家へ行った。
血だらけの有、死んでいるのかと何度も息を確認した。生きていると分かった時は、喜びと安堵、そしてあんなに出血しているのにと不思議に思ったくらいだ。
許せるはずがないんだ。絶対に許せない。
狭い窮屈な階段を上がり趣味の悪い看板の脇に古いドア、入り口もまた狭いくせに看板はやたらと大きく、安そうなドアを開ければむせ返るタバコ臭に顔を顰めた。
店内は思っていたよりも広く、そして柄の悪い連中からスーツ姿まで様々な格好をした人間がゲームを楽しんでいた。
小さなカウンターの前には看板と同じエプロンを身に付けた男が座っていて、読んでいたマンガを置いて俺を見る。細い目が特徴的な男だった。
「いらっしゃい、お客さん初めて?」
「あー、麻雀はやらないんです。人を探してて」
「人?うちの店にいるの?今いる?呼ぶよ」
「それが顔を知らなくて」
「顔知らないならどうやって探すんだよ、兄ちゃん」
50代くらいの店主は顔を知らないのに探していると言った俺をバカにした様子はなく、遊んでいる連中に目を向けて整えてある頭をガシガシ掻く。
「蒲田って苗字しか知らない。知ってます?」
「おー、蒲田ね、あの蒲田。あんなのと付き合わない方がいいぜー兄ちゃん」
「こっちは付き合いたくないんだけどね」
「そうかぁ、兄ちゃんもか?アレは金に困っててさ、うちの常連客に借金しまくってて返さないんだよ。兄ちゃんの親族とか友人とかも?」
「まぁそんなとこですね」
「やっちまったなー、相当金に困ってるって聞いたよ。常連の事もあるし、だから蒲田は出禁にしたんだよ」
「そうか……此処って聞いたんだけどね」
「残念、一昨日出禁にしたばっかりだからな。でも近くのパチンコとかスロットとか行ってんじゃねーかな。あっ!そう言えばあったかも」
店主は立ち上がりマンガが山積みになった中をゴソゴソと探している。崩れ落ちる本もそのままに見つけたと笑って一枚の写真を見せてくれた。
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