ひとつの夜に 青柳 哲也

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 その男を見た瞬間、考えるよりも先に体は動いて肩を掴んでいた。 「なんだよ!」  振り向くその顔は、間違いなく、写真と同じ男。  チェック柄のシャツ一枚だけ、コートも着ずにふらついている汚い男。写真よりも太っていて、身なりのだらしなさが余計に腹立たしさを覚える。 「蒲田か?」  自分でも驚くほど低い声に蒲田は目を開いた。   「だったら何だよ……ってかお前、……あれ?あれ?」  まるで面白いものでも見つけたように怯えていた表情は変わり、写真と同じように満面の笑みを浮かべて見てくる。 「確かにいい男だ。わかるよー、わかる。なんでお前に……有が惚れたのか」  蒲田は俺の目の前にスッと携帯を見せ、そこに映る俺と有の姿が目に入る。    ──── ほら、やっぱり  答えなんて出ていたじゃないか。  とっくの昔に答えなんて出ていた。  知らない振りをしたって見たくなくたって、もう答えなんて決まっていたのだ。 「なぁ、先生、これってヤバイ事だろ?これってアンタにとっちゃ最悪な事だよな?」 「最悪?」 「だってそうだろ?」  体臭と口臭に顔を顰めはしても目を合わせたまま、独特な緊張感が二人を包んでいく。 「生徒に手を出しちゃ、おいたが過ぎるってもんだ」 「おいたなんてした覚えはない」 「んな事ねーだろ。先生ちゃんと見えてる?」  スマホの画面には先ほど見せてきた写真。  ベランダでキスしているのは紛れもなく有と俺だ。わざわざ指先で拡大までして見せてくる蒲田は、黄色の歯を剥き出しにして舌を覗かせた。
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