ひとつの夜に 青柳 哲也

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 静香と戻りたいとも願ってもいたはずだった。でもそれはどうしても出来なくて、彼女に触れることも、涙を拭うことさえもしなかった。  俺はもう何も出来ない、静香にも、有にも。 「その人哲也のこと好きじゃないんでしょ……じゃあ……」 「違うんだ……違うんだよ……」 「何が違うのよ!さっきそう言ったじゃない!」 「その人は……男なんだ」  カッと目を見開く静香の表情に侮蔑の表情が浮かび上がる。涙が溢れていた瞳から光が無くなって、その目に映る自分が怖くて目を逸らした。 「哲也……男を好きなの?……それで私を抱いてたの……」 「……そうだ」 「……ッ……イヤァァァァ!」  一瞬のうちに蘇る俺と静香の日々、一つだったものを切り裂くには痛みが無いなんて事はなく、静香は泣き叫んで俺の頬を平手でたたくと携帯を取り出して電話をかけた。 「お母さん、助けてぇぇ」  泣き声も涙でぐしゃぐしゃな顔も全て俺がした事なのに、それでもまだ、赦してほしいなんて思うんだから腐ってる。  もう何もかも戻らない。  手放した事をいつか後悔するんだろうか?  それからすぐに静香の両親が着いて、二人にただ謝り続けて何度も殴られた。  相手が男だという事もあって静香の両親は侮蔑の言葉を次々に吐き続け、遅れてやってきた俺の両親はそれを聞いてショックを受ける。  まさか息子が男を好きになるなんて思っていなかったはず、自分の母親が放心状態になるのを見ていられなかった。 「本当なの……ねぇ、哲也、本当の事なの?」  母親に力無く頷く。 「アンタらの息子は男好きなのに娘に手を出した。しかも結婚までして静香を傷付けた。どうしてくれるんだ!青柳さん、アンタたち知っていたんじゃないのか?」 「息子が本当に申し訳ありませんでした」  震えながら土下座して床に額を付ける親父の姿、逞しかった背中は懺悔に小さくなって俺がした事は絶対に赦されないと実感する。  一生、赦されない。  人を傷付ける覚悟がどのくらいあっただろうか?  どのくらいの覚悟があって、この想いは膨らんだのだろうか?
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