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十日間の入院生活を終えて病院を出ると、空は細かな雪をちらちらと落としてはアスファルトを濡らしていた。
病院の中はとても暖かく担当してくれた看護師も半袖だったけど、外はとても寒くて今がまだ冬だったのを思い出す。
迎えに来てくれた光弘叔父さんの車に乗り、既に暖かい車内でシートベルトを締め、緩やかに坂道を下り自宅とは反対方向へと向かう。
「何処へ行くの?」
「まずは俺の家に行くよ。冬休みだろ?」
「大丈夫なのに」
それじゃあ青柳先生に会えない。
青柳先生に早く会いたかった。こんな状況になってしまいもう会ってくれないんじゃないか、そればかりが不安で眠れない。日に日に募る想いはどうしようもなく膨らんでいる。
たくさん説明して蒲田とはもう会わないと、もう絶対に家にも上げないと、そう面と向かって話をしたかった。
メールしようと思っても、携帯は入院する為に必要な物を入れたスポーツバックを泰子叔母さんはそのまま持って行ってしまった。
院内で携帯ばかり弄っていたからわざとなのか、お見舞いに来た光弘叔父さんに伝えてもらっても返してはくれなかった。
「光弘叔父さん、僕の携帯っていつ返してくれる?」
「……泰子が持ってる」
「泰子叔母さんは光弘叔父さんの家にいるの?」
「……明日あたりかな、泰子が来れるのは」
とても曖昧な返事に苛立ちは募る。
こっちは携帯が無いんだ。今時それに頼っているのは僕だけじゃないはずなのに、はぐらかすように携帯から遠ざけているのがよくわかった。
怒りたい気持ちを我慢出来たのは、男からレイプまがいの事をされても咎める事なくこうしてくれたから。
しかも前から関係があった、同意していたと何度も言った。そうなれば泰子叔母さんも光弘叔父さんも口に出さないだけで何を思っているのか分からない。
厄介者ならそれでも良かった。
青柳先生と会えるなら、それで良かった。
車は母さんの実家でもある大宮の方へと向かう。
「必要な物は一応揃えてあるから、足りない物があったら遠慮なく言えよ」
「家にいつ帰っていい?」
「……焦らなくていいだろ、冬休みだし」
「でもあんまり迷惑かけられないよ」
「迷惑なんて思わなくていいよ」
家に戻りたい……そう口にするのは今の状況を考えると難しくて、だから諦めて目を閉じる。
早く連絡したい、自分の携帯さえあればすぐに解決出来るのに。
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