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「あれー?有くん!どした?散歩?」
元気な真美さんの声にため息を押し殺した。
振り出しに戻るって絶対にこの事だ。
「そこの先にある八百屋さんに行ったのよ。今日はすき焼きにしちゃうんだから〜!ね?好き?すき焼き好き?なんちゃって」
あまりにしつこく駄洒落を言ってくる真美さんに思わず笑い、荷物を持って来た道を戻ることになった。
それに真美さんは憎めなくて優しい人。
「バイト先のマスターに電話したの?どうだった?」
「クリスマスイヴだけでも出て欲しいと言われました」
なのに、僕は嘘をつく。
こんなに優しい人なのに、僕は平気な顔で嘘をつく。いつからこうなったのか分からない、でも真美さんの優しさに付け入る自分を悪くも思えない。
「そっか……保護者が言ってもダメかしらね?」
「保護者?真美さんですか?」
「そう。だって、こんな時にバイトなんてしてられないでしょう?」
ゆっくり歩きながら真美さんの横顔を見れば、泣くのを堪えているのが分かってしまいまた前を見た。
わかっている。
最低なのはもうわかってる。
「僕なら大丈夫ですよ、真美さん。クリスマス過ぎたらまた泊めてもらえませんか?」
「いいに決まってんじゃない」
だから、僕はこうして自分を肯定する。
心配してくれているのを分かってるのに、青柳先生の方がずっと大切な存在だった。
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