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青柳先生はもう既に近くまで来ていると教えてくれた。
僕は慌ててソファーにコートを脱ぎ捨て、冷んやりした室内をどうにか暖かくしようとエアコンをつけた。
急いでお湯を沸かしてコーヒーの準備もする。二人分のカップを今のうちに温めておこうと沸いたお湯を入れ、戸棚に片付けてあるコーヒーをキッチンの台に置く。
ドキドキした。
ずっと会いたいと思っていた人が自分に会いに来てくれる。これ以上のことは絶対に無い。
クリスマスツリーもどうにかして持ってくるべきだった、後悔しているところで戸締まりしていない玄関が開いた音がした。
「不用心だぞー」
「……ッ、先生!」
どんな表情をして入ってきてるのかがわかる。少しだけ意地悪な笑みを浮かべて短い廊下を歩いて、リビングのドアを開けて、僕を見て。
「有、鍵くらいしないと」
「……青柳……先生?」
目の前にいるのは確かに青柳先生だ。
ただ、いつもは無い無精髭と寝不足らしく目が窪んでる気がする。
「酷い顔してるとか言うんじゃないだろうな?」
「いえ、素敵です」
「寝不足でね、寝ちゃうかも」
「眠ってもいいですよ」
「じゃあ、有……枕になってよ」
「いいですよ」
話せばいつもの青柳先生だったから寝不足で体調も良くないのかもしれないと。コーヒーを淹れるのをやめてソファーに座る先生の隣に腰を掛けた。
「体は大丈夫?」
「はい……すみませんでした。もう二度とあの人とは会わないし、その……絶対に大丈夫です」
「もう二度と……絶対に会おうなんて思わないでくれ」
「はい、もう絶対に無いです」
信じてるよ、青柳先生はそう微笑んだ気がする。先生はそのまま僕の膝を枕にしてきて、疲れたように目を閉じてため息を吐いた。
「有……会いたかった。ずっと有のこと考えていた」
「……セン…セ?」
目を閉じたまま、そしてこんなにストレートな言葉は初めてだった。とても真っ直ぐに言われ、僕は顔を赤くしながらも戸惑ってしまう。
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