眠れぬ夜を抱いて

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 泣いても泣いても誰も来ない、青柳先生はもう来てくれない。  母さんだって帰って来ない、僕を置いて男を選んだ。  泣いても、泣いても、一人。 「せんせい!!」  大声で何度も先生を呼んで、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになる顔を醜く歪ませて。  そして暫く経ち、突然玄関のドアが大きく開いた。 「先生!青柳先生!」 「有!」  思い切り抱きついて何度も先生を呼ぶ、でもそこにいるのは青柳先生じゃなく、渉と慎吾だった。 「青柳先生から連絡があって、今すぐに有の所へ行けって」 「有……ごめん、ごめんな。俺たちもっと早くこうしなきゃいけなかったんだ」  バカみたいに泣く僕を二人は挟むように抱きしめて、でも僕は先生じゃないことにまた悲鳴に近い声を上げる。 「先生を連れ戻して!お願い、僕に返して」 「有……俺たちがずっとそばに居るから」 「お願い……おねがいします。たすけてよ……助けてよ!渉、お願い!」  久しぶりに見た渉は僕に何度も頷く。 「ねぇ、慎吾……早く先生を、先生を呼び戻してよ!」  慎吾は涙を溜めて僕を強く抱きしめる。 「ねぇ、お願い……助けて。助けてよ、愛してよ……僕を……僕を、僕を……殺してください」  愛は、いつも僕を避けて流れていく。  何にも無かったように、そこにいるのかも気付かずに流れてく。  その程度の、そんなちっぽけな僕に、生きている価値なんてあるんだろうか?
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