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残された夏 篠原 有
秋とは言ってもまだ暑い昼間、見慣れたリビングのソファーには大宮から来た叔父さんと叔母さんが座っていた。
神妙な面持ちで一点を見つめる二人に、僕はカサカサになった唇を開きかけてはまた閉じる。
あれから一週間、母は帰ってこない。僕の母さんは勤め先のスーパーの店長と失踪した。
本当は駆け落ちと言えばいいのか。
相手の人には妻子がいて、来年で大学生になる長男と高校に上がる次男がいるとか。
これからますますお金がかかる時期にこのような状態になってしまい、そして愛する夫のこうした裏切りに奥さんはショックで寝込んでいると光弘叔父さんに聞いた。
僕はどこか他人事のような気持ちがあって、そこまでショックとか苦しいなんて事もあまりなく一週間前と変わらない生活をしている。違うのは学校に行っていないことくらい。
担任の青柳先生が気を使ってくれたと泰子叔母さんは教えてくれたが、普段なら教室にいるはずの膨大な時間をどう使ったらいいかわからず、途方にくれているのも事実だった。
でも、いつまでもこのままじゃいられない。
光弘叔父さんには光弘叔父さんの、泰子叔母さんには泰子叔母さんの生活があり、そして未成年の僕には大人の助けが必要な現実があるのだ。
そして高校を続けていくべきかそれとも働くか、そう考えればこの状況の中では自ずと答えは出てくる。
迷いなんてなかった。
今すぐにでも働く場所を探さなければ、光弘叔父さんと泰子叔母さんを日常に戻さなければ、気持ちは焦るのに二人は僕の退学する意思をあっさりと否定してしまった。
ならばこれからどうするのか、先の事を考えると二人黙ったまま。僕にのしかかる現実よりも重い現実が二人を無口にしているのに。
「やっぱり僕は高校を辞めて働くべきだと思うんだ」
「そんな事はしなくていい、俺が何とかするから」
「そうよ、私たちに任せときなさい。有は何も心配しなくていいの」
そうは言っても、二人には家庭がある。
もちろんその家族をよく知る間柄ではあるけれど、違う、のだ。
僕がそこに入ってしまったらバランスは必ず崩れてしまう。いくら血の繋がりがあると言っても、入らないラインの向こうとこちらで成立する関係もある。
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