戸惑う秋 篠原 有

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   いつも渉と慎吾と三人で帰るはずの道を、バイトの時間が迫っていた為に二人には何も言わずに走って帰った。  マンションの階段を急いで駆け上がり、汗だくのまま帰宅すると急いでシャワーを浴び、片野に連絡をして髪を乾かす。  不思議と緊張はなかった。  そんな事よりも考えなきゃいけない事がたくさんあったからなのかもしれないし、二時間という限られた短い時間にホッとしていたからなのかもしれないし。  すぐに片野から連絡が入り、蒲田の車に乗りこちらに向かっているとメールが入った。  服装は決まってなくていつものジーパンとTシャツ、持ち物はスマホ、サイフ、鍵だけ。  まだ帰宅したばかりの部屋を早々に後にすると、後ろのポケットに入れていたスマホが鈍い音を鳴らしながら振動する。見れば着信は渉からのものだ。  心配して連絡をくれたんだろうけど僕は後から連絡しようとそのままポケットにしまい、今からの事に気持ちを整えていた。    マンション前の花壇に腰を下ろして片野たちを待つ間、マンションの住人とすれ違った。住人と言っても話をしたことは無く、何階に住んでいるのかも分からない。  ただ、気のせいかもしれないけど僕の家のことは知っているようで、母さんと同年代だろうおばさんからは、こんにちはの代わりに頑張ってねと言われて苦笑いした。  駐車場にゆっくりと入ってきたミニバンの白い車が見え、立ち上がるとまたポケットに入れてあるスマホが鈍い音を出しながら振動を始める。  また渉か慎吾だろうと勝手に決めつけ、確認せずに小走りで車に近づくと、運転していた蒲田は缶コーヒーを咥えたままニヤリと笑った。 「しーのはら君!お待たせ!」  スモークの窓が開けられ、片野が顔を出す。ただそれだけでも中性的で美しい少年は、窓から缶コーヒーをくれてドアまで開けてくれた。   「緊張してない?」 「今のところはまだ大丈夫。……蒲田さん、よろしくお願いします」 「おう、お疲れ!」  蒲田とバックミラー越しに目を合わせ、片野の隣に座ると車は動き始める。   「今日はよく頼んでくれるお客さんなんだよ。お客さんにはもう新人を連れて行くって言ってあるんだけど、凄く喜ばれてさ」 「お客さんて何人くらいいるの?」 「今日のお客さんはいつも7、8人くらいかな」  バイトの内容やどういった事をするのか詳しく聞いてなかった為に想像出来なかったが、片野から色々と話を聞くうちに不安も出てきた。
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