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場所は自宅だったりホテルだったり、または旅館やお店だったりと幅広く呼ばれてはこうして車で現場に向かう。
お客さんから直接呼ばれて行くこともあるが、お客さんが店や旅館などに要望して頼まれることもあるとか。
僕はよく知らなかったがパーティーコンパニオンと同じだと片野は説明し、僕はただ黙ってイメージするので精一杯だった。
「僕たちは未成年だからお酒なんて飲む必要ないから。でもすすめてくるんだよ、大人ってさ」
「その時はどうすればいいの?」
「僕は氷水とか烏龍茶をお酒ですって言って飲んだり……かな?」
片野の返事に盛大に吹いて笑う蒲田はバックミラーで僕を見る。
「有の前だといい子ちゃん演じるんだな、ユーマは」
「そんな事言わないでよー」
笑う二人に僕は曖昧に頷いて笑みを浮かべていたが、たった今蒲田から「有」と名前で呼ばれたことに気持ち悪さを感じていた。
現場は車で三十分ほどの場所で周りはすっかり山だった。
片野が言うには今日の常連さんはいつも場所が違うらしく、今日は新人の僕の為に奮発していつもより高めの旅館にしたとか。
現場が近づくに連れ少しずつ不安は緊張に変わり、二時間という時間が意外と長い気がして無口になってくる。
「大丈夫だよ、篠原くん。僕がサポートするからさ」
「何を話せばいいんだろ」
「合わせるだけ。相手が話し、篠原くんがそれに答える。分からなかったらそのまま素直に口に出して、教えて下さいの姿勢で勉強する振りをする」
「出来るかな」
「大丈夫だよ。笑って、篠原くんは笑うと凄く綺麗だ」
男に綺麗って、とも思ったのに、車が旅館の駐車場には入らず脇道に入り停車したことで会話は途切れた。
「わりぃな、有。此処で着替えてくれるか」
「篠原くん、今日の衣装だよ。だいたい車の中で着替えて現場に行くんだ」
渡された服は意外にも地味な濃紺のスーツ。
「ちゃんとした旅館だからね、服装も合わせるんだよ。意外だったろ?」
「かなり」
「でしょー。僕はハーフだから大目に見てもらえるけど、本当は茶髪もダメだしピアスもダメなんだよ」
そのきっちりとしたルールが僕にはありがたく、今から行く場所も想像より安心していい場所に思えた。
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