其ノ七

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 それは図星だったらしく、希望は少し動揺する素振(そぶ)りを見せたが、すぐに落ち着きを取り戻して、 「参ったよ。本当に頭が良いんだね、あんた」  ふう、と深く息を吐きながら希望は言った。その面持ちはどこかスッキリとしていて、まるで長年続いた肩こりがほぐれたような、そんな印象を受ける。 「あたしは母さんを苦しめた周防の奴らと京平を絶対に許さない。あいつらだけは、何遍殺したって足りないぐらいだよ。……でも、他の村人はどうだったんだろう、母さんの言う通り、本当に悪い連中だったんだろうか……。一年前に母さんが病気で死んで、周防の隠し財産が底を突いた時も、あんたの言う通り、あたしは迷っていたんだ」 「その迷いこそが、君に復讐を留まらせた。家畜を攫ったのは、生きるために食料が必要だったから。そうだろう?」  詩宮が聞くと、希望は静かにうなずいた。  それから、目にかかりそうになっていた前髪をかきあげて、   「復讐するべきか、やめるべきか、迷って、迷って、今の今まで迷い続けて……。ついさっき、あんた達の話を聞いたおかげで、ようやくわかったよ。悪いのは母さんの心を壊れるまで追い詰めた周防の奴らと京平で、志保さんも、村の人達も、本当は悪くないんだって。……だって、本当に悪い人だったら、泣きながら母さんに謝ったりはしないでしょ?」  もう限界だったのだろう。鈴を転がしたような声がフルフルと震えたと思った直後、一筋の涙が彼女の頬を伝った。   「……でもね、ワガママを言っちゃうと、村の人達には悪者であって欲しかったなあ」  これほどまでに悲しい笑顔が、果たしてこの世にあったのだろうか。  彼女の顔を見ていた有馬は、切なさとやるせなさで胸が張り裂けそうな思いに襲われて、グッと拳を握りしめた。堪えきれず逃避するように詩宮の横顔に目をやると、彼は至って冷静に、しかして真剣な眼差しで彼女を真正面から見据えていた。 「どうして?」  詩宮がこんなに優しい口調で問いかけをしたのは、彼の人生においてもこれが初だろう。   「だって……だって……」  よろよろと足元がおぼつかない様子で、希望が答える。 「復讐が無くなったら、あたし、もう何をしたらいいかわから──」  言い切る前に、フラリと、まるで糸を切られたマリオネットのように、力を失った希望は床に倒れそうになる。  すんでの所で、詩宮が彼女の身体を抱きかかえた。  軽い──華奢な詩宮がそう思うほどに、彼女の身体は軽かった。  額にはじっとりと汗をかいていて、呼吸も荒い。 「先生!」 「希望ちゃん!」  遅れて、有馬と小金井が駆け寄ってくる。
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